今年も本格的に春が近付き、暖かい時期を中心に軽快に歩ける新しいシューズを探し始めた方も多いのではないだろうか?
キーンの最新作「ハイトレイル ミッド ウォータープルーフ」(以下、ハイトレイル)は、これからの季節にぴったりの軽量なトレッキングシューズだ。なお、このシューズにはローカットの「ハイトレイル ウォータープルーフ」もあり、好みによって選ぶことができるようになっている。
見た目よりも軽い!「ファスト&ライト」なシューズ
さて、ハイトレイルはキーンのシューズのラインアップの中では「ファスト&ライト」に位置付けられている。端的に言えば“軽快にすばやく動ける”シューズということで、ミッドカットで片足416gと軽量だ。

全体的にソフトな構造で、とくにアッパーの柔らかさが印象的である。
ハイトレイルのひとつの特徴は、シューズ内部にゆとりがあること。なかでも足指周りにはかなりボリュームを持たせている。

人によっては緩く感じるかもしれないほどで、少なくても圧迫感を覚える人は少ないだろう。シューズ内部にゆとりがあるほうが好きな人にはうれしい設計だ。
シューレースは細めの平紐タイプ。

締め付ける際、丸紐のようにはスムーズに滑らないためフィット感の調整には多少手間はかかるが、その分だけ緩みにくいのが長所だ。
このシューレースは足首の屈曲部分で一カ所、かかと方向にまで延びている。黒い合皮の三カ所の隙間からシューレースが見えているのがわかるだろうか?

この働きにより、かかとから足首にかけてのフィット感がいっそう高まっている。
ハイトレイルを真横から見ると、このような感じになる。

つま先とかかとはあまり反りあがっていない。言い換えれば、接地面積が広くなっていて、直立した状態で安定する。立ち続けていても疲れにくい設計といえそうだ。
アウトソールは全方向に対して滑りにくいように設計された、厚み4㎜のラグパターン。

これは近年のキーンのアウトドア系シューズで多用されているパターンで、凹凸を抑えて平面的なのに、とても滑りにくいと評判がよい。
ハイトレイルをお供に、春を迎えるフィールドへ
……というわけで、ハイトレイルのあらかたのチェックを終えて、実際に歩き始めた。

歩くこと数十分。ほう、なるほど……。
すぐにわかったのは、やはり“軽さ”だ。ミッドカットなのに履いたときの重量感がローカットに近いのである。

とはいえ、片足416gは確かに軽量ではあるものの、現代にはもっと軽いミッドカットシューズが存在しないわけではない。

しかし、ハイトレイルは屈曲性がよいために歩いたときに硬さを感じない。

それが実際の重量以上にハイトレイルを軽く感じさせているように思われる。
また、アッパーが柔らかいために、下の写真のように極端に指先付近を曲げて歩いてみてもアッパーが肌に食い込んだり、過度に圧迫したりするようなこともない。

これもまた長所のひとつだ。
全方向に滑りにくい、深さ4㎜のアウトソール
アウトソールの滑りにくさも確かなものだった。

今回は低い山のゆるやかな登山道を中心に、土の上、砂の上、木道の上などを歩いてみたが、長時間行動していてもなにかの問題が発生する兆しもない。

枯葉の上でもじつに快適だ。
木の根が張った上でも凹凸をあまり感じない。

これは長期的に見ると疲労軽減にもつながるはずだ。
柔らかく湿った土にもぴったり張り付くようにグリップする。

もっともアウトソールのラグパターンの深さが4㎜なので、それ以上に深く沈む場合はさすがに少しは滑らないことはないが、この点はどんなシューズでも同様といえる。
ともあれ、とくに気になる点がないので、途中からアウトソールに関してはテストをしているのを忘れてしまったほどである。
程よい厚みのミッドソールが衝撃を吸収
下り道を歩いたときのクッション性も十分であった。

とくに階段状のトレイルでは体重がかかりやすく、一歩一歩ごとの着地時に足裏へ衝撃が走るものである。

だが、ハイトレイルをはいていると、ダメージが少ない。これはミッドソールが衝撃を緩和してくれているからだ。

とくにかかとには厚みがあり、非常に弾力性に優れている。
シューズ内部に敷かれたフットベッド(インソール)をチェックすると、つま先付近よりもかかとのほうが肉厚になっていることがわかる。

これも衝撃吸収性のアップに一役買っているようだ。
捻挫を防止する硬めのミッドカット
ハイトレイルを長い時間履いてみて改めて感じるのは、やはり軽やかさである。

ただし、軽いシューズゆえにいくぶん華奢な造りであることは否めない。それでも十分な保護力を持っていることを感じる瞬間があった。
以下は、登山道の上に丸太が敷かれた場所を歩いたときのちょっとした“トラブル”を再現したカットだ。

僕はここでよそ見をしてしまい、丸太と丸太の間のくぼんだ所に足を入れてしまい、軽く足をねじってしまったのである。

しかし、柔らかなアッパーとはいえ、さすがはミッドカット。しかもハイトレイルのアッパーは足首の部分へ重点的にクッション材を入れてあり、この部分だけは少し硬めなのだ。

だから過度に足首が曲がったり、ひねったりすることがなく、捻挫をしないで済んだのであった。
また、捻挫の防止にはシューレースをしっかりと締め、足とシューズをきっちりとフィットさせておくことが大前提だ。

このとき、ハイトレイルのように細い平紐を使っていると、シューズによっては足首にシューレースが食い込んで痛みを生じることもある。だが、ハイトレイルはタンの部分の素材に十分な弾力性があるため、痛みは感じなかった。
ところで、ハイトレイルにはキーン独自の防水透湿素材「KEEN.DRY」が使われている。

このときのテストは晴天だったために雨天時の防水性に関しては、テストしきれなかったのが正直なところ。だが、沢の水の中に浸けてみたところ、内部への水分の浸透はなく、アッパーの撥水性にも問題なし。これならば優れた透湿性も発揮してくれるだろう。
ストレスなく、気楽に歩きたい人の一足
ハイトレイルは柔らかくて履きやすく、グリップ力も十分というバランスがとれた一足だった。急峻な山や岩場が多い場所ではもっと強度が高いシューズのほうが安心感は高いだろうが、低山や里山を気楽に楽しむのにはとても向いている。

注意する点があるとすれば、シューズ内部にかなりのゆとりがあるというハイトレイルの特徴だ。人によってはいつも履いているサイズをなんとなく選ぶと緩すぎる可能性もあり、これは靴擦れなどにもつながる。普段からキーンのシューズを履きなれている方だとしても、いつも以上に注意して正しくフィットするサイズを選んでほしい。正しいサイズ感のものを手に入れられれば、これからの季節の軽い山歩きがますます楽しくなるはずだ。
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高橋庄太郎(アウトドアライター)
高校の山岳部で山を歩きはじめ、出版社勤務後にフリーランスのライターに。著書に『トレッキング実践学』『テント泊登山の基本テクニック』など。山雑誌やアウトドア系ウェブメディアでの執筆に加え、近年はイベントやテレビへの出演が多く、アウトドアギアのプロデュースも行っている。
Instagram:@shotarotakahashi