「環境への配慮」がますます重視される現代のアウトドア。ダイレクトに地面と接するシューズは、その最先端を行くアウトドアギアといえるだろう。この「ターギーIVミッドウォータープルーフ」は、環境への負荷を最低限に抑えつつも、機能性も最大限に追求したキーンの最新作だ。
歴代のキーンのシューズどころか、アウトドア全般のシューズのなかでも特筆すべき“大定番”といえるのが「ターギーⅡ」だ。そのシリーズのなかでもミッドカットのターギーⅡミッドウォータープルーフは、とりわけ大人気のモデルである。数年前には「ターギーⅢ」も生まれ、ターギーシリーズはますます進化を遂げているといってよい。
そんななか、2024年初頭にとうとうデビューを果たすのが「ターギーⅣ」だ。ここではターギーⅣとその履き心地について、詳しく紹介していきたい。
どこが違う? まずはターギー「Ⅱ」「Ⅲ」「Ⅳ」の簡単な比較
では、ターギーⅡ、ターギーⅢ、ターギーⅣを比べてみよう。すべてミッドカットのウォータープルーフモデルである。
左上がターギーⅡミッドウォータープルーフ、左下がターギーⅢミッドウォータープルーフ、そして右がターギーⅣミッドウォータープルーフ
こちらがターギーⅡミッドウォータープルーフ(以下、ターギーⅡミッドWP)。
2008年に発売開始された大定番
重量は片足493g(27㎝)だ。
次に、ターギーⅢミッドウォータープルーフ(以下、ターギーⅢミッドWP)。
発売開始は2019年
重量は片足496g(27㎝)である。
そして、注目のターギーⅣミッドウォータープルーフ(以下、ターギーⅣミッドWP)。
ターギーシリーズの最新作
重量は片足580g(27㎝)である。
一見してわかるのは、大定番のターギーⅡミッドWPはともかく、ターギーⅢミッドWPとターギーⅣミッドWPの外観が非常に似ていること。じつは、ターギーⅣミッドWPは、ターギーⅢミッドWPをアップデートしたような位置づけのシューズなのである。とはいえ、重量に違いがあることからわかるように、実際はかなり異なるのだ。
同じ「ターギー」シリーズだけに兄弟のように似たルックス
シューレースが配置されている幅は、ターギーⅡミッドWPは広く、ターギーⅢミッドWPとターギーⅣミッドWPは狭めだ。つま先部分は、ターギーⅡミッドWPは広めでターギーⅢミッドWPとターギーⅣミッドWPは少しシェイプされているように見えるが、じつはすべて同じ足型である。だから、足を入れたときの感覚は変わらない。
アキレス腱が当たるアッパーの後部は、ターギーⅡのみ少し低い。わずかながら、ターギーⅢミッドWPとターギーⅣミッドWPのほうが、がっしりした印象かもしれない。
ターギーⅢとターギーⅣを見比べると、細かなデザインはやはり違う
アウトソールを後ろから見ると、ターギーⅡミッドWPの地面に当たる部分は丸みを帯びて軽快そうであり、ターギーⅢミッドWPとターギーⅣミッドWPは鋭角的で安定感がある。
同様にアウトソールのパターンを比較すると、大小の凹凸が並んでいるターギーⅡミッドWPに比べ、ターギーⅢミッドWPとターギーⅣミッドWPは細かな凹凸がたくさん並び、なおかつ横方向にミゾが刻まれていることがわかる。
歩行感を大きく変えるアウトソール
このような特徴からこれら3モデルを比較すると、ターギーⅡミッドWPはどちらかというとリラックスした履き心地で、キャンプなどにも向くタイプ。一方、ターギーⅢミッドWPとターギーⅣミッドWPはよりアクティブなトレッキングなどにも使いやすいタイプだ。また、アウトソールはターギーⅡのほうが硬く、長時間立っていても安定していて疲れにくいので、音楽フェスなどにも理想的だ。それに対してターギーⅢミッドWPとターギーⅣミッドWPのアウトソールは柔らかめで、前進するときの体重移動が楽なのである。そのために、歩く時間が長いトレッキングなどで大いに活躍する。
製法をアップデートし、耐久性がアップしたターギーⅣ
では、とても似ているターギーⅢミッドWPとターギーⅣミッドWPはどのように違うのか?
カラー展開は、メンズ4色、ウィメンズ3色
じつは、ターギーⅢミッドWPとターギーⅣミッドWPの最大の違いは、見えない部分にある。それは、製法だ。
アウトソールはノンマーキング仕様
アウトソールは、ターギーⅢミッドWPと同様のトレッキングに適した滑りにくいパターンが採用されているが、アッパーとアウトソールの間にあるミッドソールの製法は大きく異なる。
一般的なシューズの製法では、アウトソールとミッドソールを接着剤で貼り付ける。しかしターギーⅣはシューズ本体のアッパーとアウトソールの間にミッドソールの素材を流し込むことで、接着剤を一切使わずに一体化させる“ダイレクトアタッチ製法”を用いている。接着剤で接着したシューズは、経年劣化でアッパーとソールが剥がれることがあるが、この製法の場合はその心配がない。そして、このミッドソールの素材には部分的に空気も注入されているので、使用資源を軽減している上、クッション性がすばらしく、劣化もしにくい。それが、環境に配慮した製法を取り入れ、かつ耐久性もアップしたターギーⅣの最大の特徴なのである。
現代は環境に配慮したモノ造りが重視され、自然と直接まじわるアウトドアの世界ではとくに顕著だ。そして、その動きは日本では考えられないほど欧米では急進的である。キーンは以前から環境に配慮しながら数々の製品を生み出してきたが、そういう意味では、ターギーⅣミッドWPは“環境配慮型”の最前線を行くシューズの代表格といえそうだ。
ターギーⅣミッドWPが持つ、気が利いたディテール
ターギーⅣミッドWPは環境面だけを重視しているわけではなく、シューズとしての機能性も検討しつくしている。
シューズ前方には、キーンの代名詞的機能であるトゥ・プロテクション
足先の怪我を防止するのは、キーンらしい丸みを帯びたトゥ・プロテクション。また、2種のレザーを使い分け、柔軟性とともに耐久性をアップさせている。この部分もターギーⅢから進化した点だ。
アッパーのサイドはクッション性を高めてあり、心地よい履き心地を得られる。
シューレースと連動するサイドのテープは足首まで延び、フィット感を向上
同時に外側から強度が高いレザーで包み込み、捻挫を防止している。
ミッドソールのかかと部分は厚みがあり、衝撃吸収性に富んでいる。
シューズ内部には、安定性を高めるスタビリティシャンクも搭載
長時間歩いても、足にダメージが起きにくい設計なのである。
シューレースの左右の幅が狭いターギーⅣミッドWPは、その分だけレザーを使う面積が広くなっている。
シューレースには、軽い力で締められる丸紐を使っている
一方、レザーに挟まれたタンの部分は透湿性が高い化学繊維。それらのコンビネーションでアッパーの機能性をいっそう高めている。
アッパー上部のフックは、シューレースをかけるだけで固定できるタイプ。ひとたびフィット感を調整すれば、その後は緩みにくい。
シューレースの締め具合の微調整がしやすいスピードフック
非常に細かいことを言えば、このフックを留めるリベット(写真中央で上下に2つ並んでいる丸いパーツ)はターギーⅢミッドWPよりも少し高くなっている。そのために少し押し入れるようにしないとシューレースはかからない。
歩行中、このようなフックに逆の足のシューレースが引っかかったりして転倒することがときどきあるが、ターギーⅣミッドWPのフックは良い意味で簡単にはかからないため、その心配がない。地味な工夫ではあるが、これによってターギーⅢミッドWPよりもターギーⅣミッドWPの安全性は高まっている。
フットベッド(中敷き)にも、空気が注入されているので、クッション性が高い。
インソールともいわれるフットベッド(中敷き)には、KEENの環境負荷低減を伝えるメッセージが。
シューズ内部にゆとりがあり、ゆったりとした履き心地
さて、実際に歩いてみよう。
春を先取りし、テストは沖縄の山でも行われた
同じ足型を使っているだけあって、足を入れた感覚はターギーⅡミッドWPとやはり変わらない。内部で締め付けられる感覚がなく、余裕を持たせた設計になっているのがうれしい点だ。これまでターギーⅡミッドWPを愛用していた方でもまったく違和感なく使えるはずである。
とはいえ、実際に歩いてみると、予想以上に違う。
緑が茂る深い森。柔らかな地面が心地よい
アウトソールが曲がりやすいターギーⅣミッドWPは、じつに軽やかな歩き心地だ。
シューズがこれだけ屈曲しても、内部の足に違和感はない
体重移動が容易で、前進するときに無用な力を使わずに済む。
疲労の原因となる歩行中に体が左右へブレる感覚もだいぶ抑えられている。
湿った地面の上でも、土のこびりつきは少ない
採用されているアウトソールの安定感が高いからだろう。
スリップを抑えるアウトソールの形状
その安定性の理由のひとつが、アウトソールのエッジが鋭角的であることだ。
アウトソールのサイドはいくぶん鋭角的
この部分が丸みを帯びていると左右には動きやすいものの、同時に体が左右に傾きやすく、それが体のブレにつながるわけである。
このアウトソールはグリップ力も高い。かなり急な下り道でも滑らずに歩いて行けた。
急な下り道ではブレーキ力を発揮する
なるほど、ターギーⅣミッドWPのアウトソールは、トレッキング向けのアウトソールとして適切に設計されているようだ。
湿ってぬかるんでいる場所でもスリップは少なかった。
滑りそうで怖い泥だらけのトレイル
これもサイドが切り立ったアウトソールのおかげだろう。
防水性も問題なく、小さな沢の流れのなかに長時間立ってみたが、浸水することはまったくなかった。
こういう場所も躊躇なく歩けるのはうれしい
これはキーン独自の防水透湿素材であるKEEN DRYの力である。足に汗をかいてもシューズ内の湿り気は少なく、シューズ内部のコンディションはつねに良好だ。
撥水性の高さも十分であった。
アウトソールは濡れていても、アッパーの水分は弾き飛んでいる
とくにメインで使われているヌバックレザーの撥水性は驚くほどである。もっともシューズの撥水性というものは、履き込んでいくうちに必ず落ちていく。シューズの機能を正しく発揮させるためには、定期的にお手入れしながら使ってほしい。
体のバランスを崩しにくく、岩場でも活躍
ターギーⅣミッドWPは岩場でも安定した歩行力を見せてくれた。
滑りにくいうえに体のバランスがとりやすく、こんな岩場も怖くはない
土だけではなく、岩の上でもグリップ力は確かで、スリップしにくいのである。
ターギーⅣミッドWPのアウトソールは、サイドだけではなく、細かな凹凸すべてがほぼ90度に角が立っている。
三角形を並べたようなアウトソールのパターン
そのために、岩の上の細かな突起をしっかりととらえてくれるのだ。
ただし注意してほしいのは、買ったばかりのターギーⅣミッドWPは初期段階では少し滑るようなこともありえる点。じつは使用する前のアウトソールには表面にコーティング剤が塗布されており、これが剥がれ落ちるまでは正しいグリップ力を発揮しきれないらしい。だが、履いているとすぐに滑りにくくなってくるので、安心していただきたい。
さて、岩が転がっている場所で柔らかなシューズを履いていると、ときどきつま先をぶつけて痛みを覚えることがある。
小さな沢沿いの登山道は大小の岩でいっぱい
しかし、先述したトゥ・プロテクションの効果で、たとえつまずいても痛みはなし。
つま先を確実に守ってくれる機能性は、まさにキーン
衝撃も緩和してくれて、無用な足のトラブルを避けることができる。
ミッドソールの理想的な弾力性で疲労を抑える
さて、何時間も歩き続けていると、地面からの衝撃が次第に蓄積していくものだ。
登り下りの多い道でこそ、ターギーⅣミッドWPの実力がわかる
しかしターギーⅣミッドWPは、歩いた時間のわりに疲労度が少なく感じる。
それはやはりクッション性が高いミッドソールのおかげだろう。
程よく硬く、程よく柔らかいミッドソールで、かかとの弾力性は十分
環境に配慮した製法を取り入れているターギーⅣミッドWPだが、歩き心地をはじめとする機能性を犠牲にしているわけではないことがよくわかった。
アウトドアでのアクティブな行動に適したターギーⅣミッドWP
ターギーⅡからターギーⅢという流れのなかで生み出された、このターギーⅣミッドWP。大定番のターギーⅡがどちらかといえばキャンプやフェスで重宝するタイプだとすれば、ターギーⅣはもっと体を動かすトレッキングなどに向くタイプだ。
履きならしていくと、歩行中のフィット感がますます高まっていく
歩行中の安定感やグリップ力の高さはキーンのシューズのなかでもトップクラスで、疲れも少ないのがいい。ちょっとした岩場を含む低山から森の中を長く進むトレイルなどで活躍するだろう。
ターギーⅣミッドWPが得意とするのは、こんなトレイル
それにしても同じ足型を使い、足を入れた感覚はほとんど変わらないというのに、同じターギーシリーズでも使い心地が大きく違うのはおもしろい。今後は用途に応じて使い分けるとよさそうだ。
高橋庄太郎(アウトドアライター)
高校の山岳部で山を歩きはじめ、出版社勤務後にフリーランスのライターに。著書に『トレッキング実践学』『テント泊登山の基本テクニック』など。山雑誌やアウトドア系ウェブメディアでの執筆に加え、近年はイベントやテレビへの出演が多く、アウトドアギアのプロデュースも行っている。
Instagram:@shotarotakahashi

【紹介商品】
ターギーⅣ
ターギーⅣミッド
ターギーシリーズ