2022年9月14日、徳島県阿南市を私たちは訪れました。この日、私たちKEENが行う、ユース助成金プログラム「KEEN EFFECT KIDS GRANTS(キーン エフェクト キッズ グランツ)」を利用し、野外活動が行われるので取材させていただくためです。
アウトドアは、すべての人が分け隔てなく楽しみ、また未来の世代へ守って行くべき場所。そんな思いと共にKEEN は創設以来、出自や性別、世代を超えて「誰もがいつでもソトを楽しめ、やりたいことを実現できる世界」を目指し、売り上げの一部を世界中のNPOなどに寄付してきました。
そのひとつが2014年から続けているユース助成金プログラム「KEEN EFFECT KIDS GRANTS(キーン エフェクト キッズ グランツ)」です。18歳以下の若者や子どもたちを対象に、冒険いっぱいの野遊びや環境教育、自然から学ぶ機会を創出する野外教育活動などを行う世界中の団体の草の根プロジェクトを応援してきました。
「ソト遊び」「野遊び」「山遊び」「海遊び」といった大自然にアクセスできるチャンスは、全ての子どもたちに与えられるべきだとKEEN は考えています。障がいや病気、家庭状況などさまざまな理由によって、ソト遊びの機会をなくしている子どもたちにアウトドア体験を通して勇気や希望を持ってもらう活動を、微力ながらサポートしていきます。
初めての海遊び!YMCA阿南国際海洋センターでのアクティビティ体験に密着!
今回、「KEEN EFFECT KIDS GRANTS(キーン エフェクト キッズ グランツ)」を利用していただいたのは、大阪で3箇所のフリースクールを運営している「フリースクールここ 」のみなさん。
「フリースクールここ」には、さまざまな理由で学校に通えなくなった小学生から高校生までの年齢の子が集まっています。スタッフは、ここを卒業した方や、大学生など。「フリースクールここ」では、自然を通して成長や新たな発見を感じてもらうために、月に1回キャンプを実施しているとのことですが、海でのキャンプは初めて!そして、こんな大人数でのキャンプも初めてとのことでした。
「フリースクールここ」理事長の三科元明さん
「このような機会をいただき、本当にありがとうございます。私はサーフィンが好きで(フリースクールに通う子どものお父さんに連れて行ってもらったのがきっかけだそう)、海遊びを子どもたちみんなとできたらいいなと思っていたんです。だけど資金面で厳しくなかなか実現できずにいたので、夢がひとつ叶いました。今回海でのアクティビティがたくさんあり、楽しみの反面、この子らはちゃんとできるのかなって不安もあるんですが、めいいっぱい楽しんでくれたら嬉しいです。この子たちは、色んな事情を抱えてフリースクールに来ていますが、不登校になったからといって、フリースクールに通ってるからといって、なにも社会不適合ではない。そのことを知ってもらいたいです。」
今回キャンプする場所は、YMCA阿南国際海洋センター。YMCAとは「Young Men's Christian Association(キリスト教青年会)」の略であり、1844年にイギリスで創立されました。現在では全世界で120の国と地域で活動を展開し、およそ6,500万人の会員を有するNPO(非営利組織)となっています。YMCA阿南国際海洋センターは50年以上の歴史を持ち、中学生の臨海学習、小学生のサマーキャンプが主な利用者で、マリンスポーツ体験、環境教育を含むプログラムが組まれています。
訪れた日はまだまだ夏日で、最高の天気が私たちを迎えてくれました。瀬戸内海の穏やかな海は、心までもそうさせてくれるかのようです。海の向こうに見える無人島「野々島」もYMCA国際海洋センターの一部。野々島までカヌーで渡るアクティビティも今回のプログラムに含まれています。
このような環境の中、ダイナミックなアクティビティを行っていますが、設立50年を経っても死亡事故ゼロの実績を持つのは、かけがえのない命を互いに尊重し守るため、自ら命の尊さを確認し、互いに尊重し合う姿勢を育む「安全教育」の思想を基本としているから。そして、指導者による安全対策だけではなく、キャンパー自身の知識・スキルの向上と、互いに安全を確保するという意識・考え方・行動を導き育むことにより、全員で安全な活動空間を創り出しているのです。
YMCA国際海洋センターのセンター長である菅田 斉さんに、今回の「KEEN EFFECT KIDS GRANTS(キーン エフェクト キッズ グランツ)」と「フリースクールここ」について伺いました。
「じつは、フリースクールというカテゴリーで来られるのは初めてのことです。ただ、どんな団体の方たちが来られても、特に別メニューを用意するってことはないですね。徳島の聴覚支援学校の方たちが来られる際は、手旗を用意するなどはありますけども。海はひとつ間違えれば大事故に繋がるので、ライフジャケットを必ず着用すること、バディチェックをすることを徹底しています。指導者が守るだけじゃなく、参加者自身が自分たちの命の確認をする、守るという安全教育です。数年前から私たちは『キャンプ・フォー・オール』という言い方をしていますが、特定の方だけでなく、色んな方がキャンプを通して豊かな体験をする場を提供していきたいと思っています。今後も、KEENさんの取り組みのように、普段なかなか自然体験をできない子たちも来てもらえたら嬉しいです。」
菅田さんと話していると、「ここ」の皆さんが到着。荷物を下ろすと早速、本日のプログラムの説明を受けます。子どもたちからは少し緊張している様子が伺えました。ワクワクとドキドキが混ざったような感覚は、じつはKEENのスタッフも同じです。
「ここ」のみなさんにはKEENサンダル「ニューポート」を提供させていただきました。
今回のキャンプでのアクティビティだけでなく、普段履きにも沢山履いてくれると嬉しいです。
ライフジャケットを着て、いざ海へ!ふと見ると、上級生の子がライフジャケットを着させてあげたり、みんなで楽しくこのキャンプができるように、手を差し伸べています。
1日目はカヤックとSUP体験!乗り方の指導を受け、思い思いに楽しむうちに、最初の緊張していた顔がほぐれ、みんな笑顔に。
「楽しい!」「難しい!」「楽しすぎる!」と、大はしゃぎ。フリースクール3校が集まっているにもかかわらず、みんな1つの教室メンバーのように仲良く遊んでいる姿が印象的でした。
YMCAで徹底しているバディチェック、班の中で2人1組のバディを組み、何か始める前と終わった後に必ず点呼をします。みんなが揃っているか、それぞれが確認し合えるシステムです。最初は恥ずかしがっていた子たちも、アクティビティの後には積極的に点呼を行っていました。
夜はキャンプファイヤー。火を囲んでレクリエーションゲームで楽しみながらコミュニケーションとったり、将来の夢を叫んだり、色んなコーナーがありました。
まるで大きな家族のように、なんとも頼もしく素直な子たち。「フリースクールに通っている=社会に馴染めない」という偏見をなくしたいと、一生懸命に活動している「ここ」の信念は、しっかり子どもたちに響いていると感じました。
無人島までカヌー漕ぎ、漂着ゴミの清掃。アクティビティ×教育で、自然の楽しさを実感!
2日目のアクティビティは、無人島である「野々島」までみんなでカヌーを漕いで行くこと!
野々島までは800m。みんなの息を合わせて漕ぐことが重要です。昨日のアクティビティですっかり打ち解け、みんなの笑顔が眩しい。
無事、みんな島に辿り着き、しばし自由時間。みんなで飛び込み大会が始まりました。
みんなを集めて最後のアクティビティ。海岸を見渡すと、たくさんの漂着ゴミ。
清掃活動を通して、どんなゴミが流れてくるのか、なぜゴミが出るのか、ゴミは環境にどんな影響を及ぼすのか、それぞれ考えてもらう機会を作ります。
たくさんゴミを拾ったので、記念撮影。
帰りももちろんカヌー。今回のキャンプは、これにて終了です。初めての海でのアクティビティ、めちゃくちゃ楽しかった!という声をたくさん聞きました。私たちKEENスタッフも、この活動がこの子たちにとって良い体験となってくれたことを心から嬉しく思います。
「知る」ことから始める。不登校で苦しむ親子をゼロにするために、私たちができることは何か|三科さんへインタビュー
YMCA阿南国際海洋センターでのキャンプから数日後、三科さんに今回の「KEEN EFFECT KIDS GRANTS(キーン エフェクト キッズ グランツ)」は子どもたちにどのような役割を果たすことができたのか、海洋キャンプでの体験について伺いました。そして、「フリースクールここ」について、不登校の実情について、私たちができることは何かをお話しいただきました。
「キャンプ後、フリースクールへの出席率が上がりました。そしてあのキャンプを経て、それぞれ仲良くなったと思います。頂いたKEENのサンダルは普段でも履いている子もいますよ。
フリースクールここでは、ここに来るきっかけを作ってあげるという意味でも毎月、近場のキャンプ場を利用してキャンプを行っています。自然の中で行うキャンプでは、子どもたちの成長がすごく感じやすいんです。みんなで協力してテントを建てたり、火を付けられるようになったり、それに新しい発見があったりなど。
今回のキャンプでは、KEENさんに取材もいただくこともあり、新たな取り組みも入れました。それは『ゴミゼロ対策』です。自分たちのゴミはキャンプ場に残していかないということ。全て持ち帰る。そしたらゴミを少なくするためには、何をどうしたらいいか自分たちで考えるようになる。環境問題に取り組むことは、誰かの、そして地球の役に立つことです。この子たちには『何かの役に立つこと』をしていってほしいと思ってるんです」
海で楽しそうな三科さん
「フリースクールここは、現在大阪府内に3校あり、小学1年生〜高校3年生になる子どもたちが全体で60人ほど通っています。ここに来る子たちは、学校でいじめられたり、環境に馴染めなかったり、学習でのつまづき経験があったりなど、本当にさまざまです。子どもたちが学校に行けなくなり、不登校になることで、親御さんたちも苦しんでいきます。親子関係も悪くなるケースもあります。その中で、最終的にSOSを出すのは子どもたちが多いんです。『自分の子どもが学校に行けないなんて受け入れられない』『周りの子どもは皆学校に行っているから、もうどうしていいかわからない』と感じてしまい苦しむ方も多く、私たちのところに相談がくるときには、本当にギリギリの状態、ということも多々あります。
実際に不登校になる子は、全体の4%だとデータではありますが、私個人的には3割近い子どもたちが学校に馴染めていないように思っています。不登校になる前段階から、フリースクールという選択肢があること、フリースクールでも立派に社会人になれることが、広く知ってもらえたら嬉しいですが、まだ全然浸透していないのが現実です。
2016年に「教育機会確保法(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)※1」ができ、これまでフリースクールに対して消極的だった学校の先生たちにも、私たちの活動を知っていただけるようになりました。※1 参照:文部科学省ホームページ
フリースクールは、学校復帰を目的とした施設ではなく、子どもたち1人1人に合わせた教育環境を与える場所です。一斉授業ではなく、それぞれの習熟度や状況に合わせて自分で取り組む内容を決めています。『将来留学したい』という子は、ずっと英語の勉強をしていたり。通信制高校とも提携しているので、レポートを提出しスクーリングをすることで高校卒業の資格も取得できます。
『フリースクールここ』としての決まり事は特にありませんが、通うにあたって、親と子ども、両者からの了承を得ることを条件としています。私たちが大事にしているのは子どもの意思なので、その子が行きたいと了承することが条件となります。あと、もう1つ。『フリースクールここ』の鉄の掟『いじめは絶対に許さない』です。いじめに繋がりそうな言動は注意し、なぜいけないのか分かってもらうように促しています。
それから、保護者との距離感はあえて近くするようにしています。それこそサーフィンに連れて行ってもらったり、月に一度バーを開いて保護者の方と一緒にお酒を飲む機会を作ったり。私たちは『先生』ではなく、一緒に子育てや教育をしたり相談をしたりするパートナーという立場でいたいんです」
「フリースクールここ」のようす 提供:フリースクールここ
「僕が二十歳頃のとき、大学に通いながらもバンドマンを目指し路上ライブをしてたんですね。そこに来てくれている子たちの中に不登校の子が多くいたんです。学校に行きたくない、家に帰りたくない、色んな声を聞きました。家に帰りたくないから朝まで外にいる子、売春をしてしまう子、薬物に逃げてしまう子。そんな子たちを放っておくことができず、自主的に夜回りをしたり、子どもたちに音楽を教えたりしていました。そんな活動をしているとき、とある小学校の教頭先生から音楽の授業を手伝わないかというお話しをいただき、そこから本格的に子どもたちと向き合う仕事をしようと思ったんです。
不登校の子たちが集まる教室のスタッフを経て、『フリースクールここ』を立ち上げ今に至るのですが、まだまだ小さな団体で、社会に対して影響力がないと日々感じ、壁にぶち当たっています。今回のKEENさんのようにサポートしてくださる企業があると本当に嬉しいですし、もっと社会への発信をしていきたいと思っています。
この現実問題がポジティブなエネルギーを持って明るく解決できればいいですよね。それには、企業や行政、地域と共同で何かをやっていくことが不可欠だと思うんです。今後はそういう活動もやっていきたいですね」
スタッフたちが考える「フリースクールここ」とは。
「フリースクールここ」のスタッフのみなさんにも話を伺いました。
南吹田校の責任者である、上岡拓矢さん。
自身もフリースクールに通った経験があり、現在は社会福祉士の資格取得に向けて勉強中でもあります。毎月のキャンプでは、責任者として子どもたちを引率しています。
「今回のキャンプでは、子どもたちから本当に楽しかったとしか聞いてないです。途中、水が苦手で泣いちゃった子がいたんです。集団が苦手な子もいたりして、普段はそのまま遠ざかってしまうところが、この環境もあってか、そのあとその子たちも海に飛び込んで遊んでいて、いい体験になったんだと思います。
人間関係で傷つき、不安を抱えながらこのフリースクールに通う子が多いのですが、三科を含めて、自分がどうとか気にしなくていいんだよ、というありのままの姿勢を大人が見せることで、子どもたちが心を開いてくれている気がします。 私たち大人は先生のときや友達のときもあったりする上で、1人の大人としてのモデルであると考えていて、何か問題が起こったときは子どもたちの意見を尊重しながら一緒に考えていくというのを心がけています。私自身が不登校の経験があり、その頃出会った三科さんが憧れの大人だったんです」
また、「フリースクールここ」の副理事長であり吹田校責任者の馬場しずかさんと、スタッフの原田楓さんに、将来の目標を伺いました。
馬場しずかさん(右)、原田楓さん(左)
馬場さん: 「街全体を使った宝探しがしたいです。もちろんKEENを履いて!これ、将来の目標で合ってます?(笑)」
原田さん: 「日本一のフリースクールになりたいです。もっと大きくなって、誰が聞いても知ってるようなスクールにしたいです」
馬場さん: 「あ、ずるい!でも、ほんまに大きい規模になりたいね」
最後に、三科さんへ今後の目標を聞くと、こう答えられました。
「不登校で苦しむ親子がゼロになることです」
今回のプログラムを通して、もっと多くの方にフリースクールについて知っていただきたいと思い、そして「フリースクールに通うという手段」が、もっと一般的になってほしいと感じました。学校が辛い、合わないと感じておられたら、ぜひフリースクールを訪ねてみてください。誰しもが平等に生き生きと過ごす権利はあるのです。私たちKEENは、これからも『フリースクールここ』を応援しております。
ユース助成金プログラム「KEEN EFFECT KIDS GRANTS(キーン エフェクト キッズ グランツ)」は今後も続けていく予定です。2023年度の募集については、またお知らせいたします。
コロナ禍になり、一度「フリースクールここ」は廃業の危機に追い込まれたそうです。個人としての支援も可能ですので、気になった方は下記からお願いいたします。私たちができることを、できるときに、できる範囲で。
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