春から夏にかけて気温が高くなってくると気になってくるのが、軽やかに履くことができるサンダルという存在だ。アウトドアはもちろん街履きとしても、怪我から足を守り、長時間履いても疲れが少なくなるように、充実した機能性で選びたい。
キーンはいくつもの“定番”モデルを持っているが、そのなかでもブランドの発足にもかかわる代表的なサンダルが「NEWPORT H2(ニューポート エイチツー)」だ。
![]()
“トウ・プロテクション”でつま先を守る、キーンの大定番「NEWPORT H2」
僕が初めて買ったキーンのシューズもこのNEWPORT H2 だった。“トウ・プロテクション”というつま先を守る画期的なカバーが設けられ、伸縮するバンジーシューレースを使ったフィット感もすばらしく、それ以来、履きつぶしては買いなおし、長年愛用し続ける一足になっている。NEWPORT H2には長いこと大きなリニューアルはなく、すでに完成され切ったモデルといえるだろう。
そんなこともあり、ここで紹介する「HYPERPORT H2(ハイパーポート エイチツー」の登場には驚かされた。それはNEWPORT H2を母体としながら別方向へ劇的に進化していた兄弟モデルともいえるものだったからだ。つまり完成されたNEWPORT H2という存在はそのまま維持し、別の機能と魅力をもつサンダルが生まれたのである。
NEWPORT H2のよさを残しつつ、より軽量で歩きやすく
では、HYPERPORT H2の特徴を見ていこう。
アウトソールの面積が広く、安定感があるフォルム
重量は314g(片足27㎝)。NEWPORT H2は460gなので、じつに150g近くも軽い。この数値だけでも軽快に履くことができ、疲れにくそうなことがイメージできるだろう。
NEWPORT H2と同じように、つま先は“トウ・プロテクション”で覆われている。
厚みのある素材でつま先をカバーするトウ・プロテクション
保護力は十分で、岩や石が多い海辺や河原でも安心だ。僕はこれまでNEWPORT H2を履いて遊んでいたときに、何度も岩につまずいて転倒したり体のバランスを崩したりしてきたが、それでも大きな怪我をしていないのは、このトウ・プロテクションのおかげだった。
アッパーの裏側にはストレッチ性の素材が使われていて、肌触りもよい。
足首周りも柔らか。裸足で履いていても擦れて痛くなることはない
しかし、肌にぴったりと密着するほどではなく、良い意味でルーズなフィットだ。
サンダルの内側。フットベッドには細かな凹凸があり、滑りにくい
足を締めつける感覚がなく、リラックスして履くことができる。街の中や日常生活ではこんな緩やかなフィット感のほうがうれしいはずだ。
かかとをつぶして、スリップオンとしても使える!
アッパーが柔らかなHYPERPORT H2はかかとをつぶし、さっと足を入れられるスリップオンのようなスタイルのサンダルとしても履くこともできる。
奥が通常の状態で、手前がかかとをつぶして履くときの状態
わざわざかかとを固定しなくてもすばやく使うことができ、これも街履きとして使用するときには便利な特徴だ。
基本的には緩やかにフィットするHYPERPORT H2だが、アッパーの甲の部分に取り付けられているバンジーコードをしっかりと引き締めてコードストッパーで固定すると、フィット感はかなり強くなる。
少し色が濃い樹脂パーツがコードストッパー。指で調整しやすい
野外のフィールドでアクティブに遊ぶときには、足とシューズが一体となったほうが格段に安全度は高まる。HYPERPORT H2は、締め付けを緩めて“リラックス”、締め付けを強めて“アクティブ”と、まるで2つのモードを持っているようなサンダルなのだ。
HYPERPORT H2を横から見ると、サイドへ4つならんで出っ張ったパーツがミッドソールから立ち上がっているのがわかる。
ミッドソールから連続するサイドの立ち上がりは1㎝ほどの高さ
このパーツは体が左右へぶれるのを抑える効果があり、とくにアウトドアの不整地では効果を発揮する。
こちらはアウトソールだ。
細長い十字型のように中央がくぼむ設計で、屈曲性が増している
大小の丸を並べたようなユニークなパターンをもち、グリップ力をキープしながら前後左右への屈曲性にも優れている。
実際に足を入れてみると、いちばん印象的なのは、その柔らかさだ。

先に述べたようにアッパーやアウトソールがソフトなだけではなく、ミッドソールのクッション性の高さも柔らかな履き心地につながっているようである。
HYPERPORT H2を履いて、いざフィールドへ!
まずは、海に近いトレイルを歩いてみた。細かな小石が敷き詰められていて、クルマも走れるようになっている場所だ。
メインのテストを行なったのは、南国の離島。サンゴ由来の小石は白い
柔らかなミッドソールとアウトソールが地面の凹凸をうまく打ち消してくれ、足裏に違和感はない。その結果、長時間歩き続けても疲れにくいようだ。
サンダルにはアウトソールの凹凸が低く、このような道では滑ってしまうタイプも多いのだが、HYPERPORT H2はグリップ力も上々である。
しっかりと地面をとらえるアウトソール
一般的にサンダルというものは、歩行力ではトレッキングシューズのようなものにはかなわない。しかしそれでもHYPERPORT H2はかなり健闘しているのがわかる。
次に砂浜へ。このような場所をサンダルで歩いていると、足裏とフットベッドの間に砂や小石が入り込みやすいものだ。
アウトソールの面積が広いHYPERPORT H2は砂浜のビーチでも体が沈みにくい
だが、この点でもHYPERPORT H2は利点を持っていた。
低い部分でも2㎝以上もある、分厚いミッドソール
ミッドソールに厚みがあり、しかもアッパーから肌が見える部分が少ないので、足裏に砂や小石が入りにくいのである。
通気性は高いのに、肌が見える部分は少ない
もちろん、長く歩いていれば少しずつサンダル内に異物は入ってきて、次第に違和感が高まってくる。そのまま履き続ければ、痛みもでてくるだろう。だが、一般的なサンダルに比べればその量は少なく、ストレスを感じにくいのだった。
保護力の高さと滑りにくさで、岩がある場所でも安心!
特筆すべきは、岩場での安心感だ。
機動力が高いHYPERPORT H2は、こんな岩の上も楽に歩ける
ビーチサンダルなどではとても歩けそうもない場所にでも、安定感が高いHYPERPORT H2ならばどんどん行くことができる。
HYPERPORT H2のアウトソールは岩場でも調子がいい。
少々乱暴に足を置いても、体重をしっかりと受け止めてくれるアウトソール
適度に柔らかいため、ほどよく岩に食い込んで滑りを抑えてくれるからだ。
そして、こういう場所でこそ、キーンのシューズの一大特徴ともいえる“トウ・プロテクション”の実力がわかる!
つま先全体で衝撃を緩和するトウ・プロテクション
間違って岩につま先をぶつけても怪我をする心配がなく、心から安心できるのは本当にすばらしい。僕はキーンのトウ・プロテクション付きのサンダルと出会ってからは、もう普通のサンダルはこんな岩場ではとても怖くて履くことができなくなっているが、HYPERPORT H2も頼れる一足に仕上がっているのがよくわかった。
サイドに立ちあがったパーツで体が左右へぶれることを抑えているHYPERPORT H2は、以下のように足をくじきそうになる凹凸が激しい場所でも、サンダルと足がずれにくい。
岩のくぼみにはまった右足。これだけ斜めになっても一定のフィット感は維持されていた
このことも怪我の防止には貢献していることがわかる。
もっとも、バンジーシューレースを締めず、ルーズなままで履いていれば、サンダルと足はずれてしまう。
過度に伸びすぎないバンジーシューレースはフィット感の向上に貢献
歩きにくい場所では、しっかりと引き絞って足と一体化させよう。
そのまま水中に入っても安心感は高い。うっすらと藻が生えているような岩の上でも、アウトソールが岩の小さな突起をとらえてくれるため、滑りにくいのである。
水はけがいいHYPERPORT H2は、海水で濡れてもすぐに乾燥する
また、アッパーに使われているポリエステル素材は乾燥が早く、濡れて冷たい感覚が長く続かないのもよい点だ。
海の次は、山中の小さな川へ。
テナガエビが泳いでいる亜熱帯ジャングルの沢の中を進む
河原と水中の石にはぬるっとした苔が生えていて海以上に滑りやすく、さすがのHYPERPORT H2でもあまり安定はしない。
水中の石は見えにくいが、トウ・プロテクションをもつHYPERPORT H2ならば安心
だが少々滑っても、つま先はトウ・プロテクションが守ってくれ、足を怪我するほどの危険性はない。アッパーの外側へ肌が露出している面積も狭く、怪我をしにくいのはありがたかった。
僕はこの日以降もHYPERPORT H2を履き、フィールドテストを続けた。軽量で足さばきがよいHYPERPORT H2は長時間履いていても疲れにくく、なにより怪我をしにくいのは大きな魅力だ。汗や雨で濡れたときでもすぐに乾くのもとても便利で、今年の夏のフィールドで大いに活躍してくれると確信した。
リラックスした履き心地で、旅先や日常使いでも活躍
一方で、シンプルで上品なルックスのHYPERPORT H2は、旅行や街履きでも大活躍する。
数種のカラーバリエーションを持ち、これはBirch/Plaza Taupe
アウトドアではしっかりフィットさせてアクティブに遊び、街に戻ったらフィット感を緩めてリラックスする……などという使い分けができるのも、HYPERPORT H2のよさだ。
雰囲気がある石積みの壁の前にもなじむデザイン
軽量なので、サブのシューズとして旅先に持っていくのも負担がない。つぶせば予想以上にコンパクトにもなる。
足なじみがよい一足は、1日履き続けても疲れ知らず
一足持っていれば、とても重宝するのは間違いないだろう。
通気性が高いアッパーは、気温が高い時期でもドライな感覚
個人的には、かかとを踏んだままでも履けるのが、とても気に入った。
かかとに硬いパーツはなく、つぶして履いているのを忘れるほど柔らかい
旅先のホテル内でくつろぐときなど、かかとをかけてフィットさせる必要はなく、このほうが断然リラックスできる。よく考えられた工夫だと感心してしまった。
HYPERPORT H2は、これからのキーンの代表作となりえる!
冒頭で説明したように、大定番のNEWPORT H2の兄弟的モデルともいえるのが、HYPERPORT H2だ。僕はこれまでサンダルとしてはがっしりとした履き心地で安全性が高いNEWPORT H2を愛用し続けてきたが、これからはHYPERPORT H2の出番が一気に増えていきそうである。
NEWPORT H2の根強いファンにも試してみてもらいたいHYPERPORT H2
驚くほどの軽さと柔らかな履き心地、それはNEWPORT H2とは異なる大きな魅力だ。これだけの実力があれば、HYPERPORT H2も今後のキーンの定番モデルとなっていくと思われる。これからの暑い季節、ぜひ一度は足を入れてみてほしいサンダルなのであった。
【関連商品】




高橋庄太郎(アウトドアライター)
高校の山岳部で山を歩きはじめ、出版社勤務後にフリーランスのライターに。著書に『トレッキング実践学』『テント泊登山の基本テクニック』など。山雑誌やアウトドア系ウェブメディアでの執筆に加え、近年はイベントやテレビへの出演が多く、アウトドアギアのプロデュースも行っている。
Instagram:@shotarotakahashi