私たちの愛するアウトドアフィールドや自然は、気候危機によって急速に劣化が進んでいるといわれています。でも悲観ばかりはしていられないと、ちょっとした行動の変容や思考の転換、テクノロジーを上手に使うことでCO2も必要量削減できるのではないか、と動き出している人々がいます。
そんな各方面の専門家を招き、KEENも応援するシンポジウム「未来へのバトンサミット2021ー子どもたちと未来のために、地球を守るー」が2021年11月に開催されました。
サスティナビリティをどう表現するか、気候危機とどう向き合うか、どう楽しみながら次世代へ繋ぐか。そのヒントを見つけようと、KEENスタッフもシンポジウム会場である日野市の実践女子大の門をくぐりました。
➤未来へのバトンサミット2021 シンポジウム
https://hino-shakyo.stores.jp/
※アーカイブ視聴が可能です
明日のために今できること、みんなで考えて行動しよう
人間の経済活動や生活が気候危機に関係しているのは、もはや疑う余地がない、とされる国際的なレポートが出ています。2030年までにCO2の排出量を半分以上抑えなければ、地球のあらゆるバランスが崩れ、劣化に拍車がかかる…という予測もでています。
この事実に向き合うために、サミットのテーマは、SDGs、気候危機の問題と、循環と調和のある暮らしの必要性、それを教育でどう取り組むかというテーマを掲げ、幅広く共創することの大切さ、暮らしを見つめながら経済をつくりなおしていくことについて、3人の専門家のみなさんがパネリストとなり、話し合われました。
<パネリストの皆さん>
石田 秀輝(いしだひでき)さん
地球村研究室代表/東北大学名誉教授/星槎大学特任教授 他)
村木 風海(むらき かずみ)さん
CRRA(一般社団法人炭素回収技術研究機構)代表理事
汐見 稔幸(しおみ としゆき)さん
白梅学園大学・同短期大学学長
今必要なのは、ひとつの方向ではなく、あらゆる方向からのアプローチ
パネリストの3人の方からそれぞれの専門分野からの処方箋が示されました。次に3人が一堂に会して、シンポジウムの総意としての、提案を行っていただきました。一同に会するのは初めてということもあり、話の展開が楽しみでした。
それぞれのメッセージ、そして会場の質問へのお答えの中から、新たな地平が見えてきました。その抜粋をお送りします。
バックキャスト思考で「間(ま)」づくりを 石田 秀輝さん
「わくわく暮らしながら地球環境に負荷をかけない暮らし方ができる新しいシステムへの移行」。石田 秀輝さんのお話は、私たちの生き方の大きなヒントになるものでした。
「地球環境も先進国の経済システムも、限界を迎えています。でもそれを止めるための我慢は続きません。それよりも、子ども達が地球環境に負荷をかけない美しい島で笑顔で暮らす未来社会をデザインし、そこから今できることをバックキャスト(望むべき未来から考える思考)で考えるのがいい」と石田さん。
そのような社会の実現には、経済成長への依存から、自給自足型で自立する新定常社会への移行が必要。とはいえ急な移行ではなく「依存と自立をつなぐ間(ま)が大切」とおっしゃいます。
石田秀輝さんのブログ「地球村研究室」より
「間」とは、少しの不自由さや不便さを自分やコミュニティの知識・知恵・技で越えていくこと。その予兆は、クルマを自転車に変えたり、家庭菜園や週末アウトドアやDIYを楽しむライフスタイルの変化として芽吹いている、と言います。
でもライフスタイルを変えただけでCO2を減らせるのでしょうか?
「コロナ禍がそれを証明しました」と石田さん。「移動や生産が大幅に制限されたことでCO2排出は世界で最大17%、欧米では30%下がりました。みんなが暮らし方を変えただけでこれだけ減ることが実証されたんです」
コロナ禍で大変な苦境にある現実。その反面生まれたのは大幅なCO2削減。自然の宝庫沖永良部島で暮らす石田さんの「この教訓を生かすことが求められている」という視点に、ハッとさせられました。
CO2の掃除機から火星旅行まで 村木 風海さん
村木さんは今20代になったばかりの現役大学生。そして温暖化を止める研究から火星移住まで研究する(一社)炭素回収技術研究機構の主宰者で、「陸海空宇宙すべての乗り物をCO2ゼロにする」研究を続けていらっしゃいます。
「CO2を半分まで減らすタイムリミットはあと8年しかありません。世界中の乗り物と会社やオフィスを全部止めてやっと半分。でも乗り物にも乗らず家にいてずっと過ごす、と言うのは無理です。そこでテクノロジーの力を借りる。ということで、今まで空気中に出したCO2を直接吸い取ってマイナスにするCO2直接回収の研究をしています」。
その成果として開発したのが、世界最小サイズで誰もがボタンひとつでCO2を回収し地球を冷やす、CO2の掃除機のようなロボット「ひやっしー」です。
世界最小のCO2回収マシーン「ひやっしー」 CRRA公式HPより
大気中のCO2を回収する大型の装置はすでに実用化されているそうです。東京都ほどの面積に敷き詰めれば世界の1年間のCO2排出を帳消しにできてしまう。
「そのぐらいの面積は世界中にたくさんあります。何千兆円もかかりますが、世界中が少しずつ資金を出せば可能。できていないのは、一人ひとりの意識が変わっていないからです。この意識を根っこから変える啓発のために、あえて世界で1番小さい装置を高校2年生の時に作りました」。
ホーキング博士の子ども向け冒険小説で火星移住に憧れ、その大気の95%を占めるCO2を除去するにはどうすればいいかとCO2の研究を始め、最近はCO2から石油に代わる燃料を作る研究にも成功しました。
行きも帰りもCO2で作った燃料で、火星ロケットを飛ばすこと。そう語る21歳の科学者の話のスケールに魅了されました。
人間は多様な生き物によって生かされている 汐見 稔幸さん
3人目は、「子ども主体の保育」を唱える子育てや保育の第一人者で、多くの著作もお持ちの汐見 稔幸さんです。山梨県北杜市の八ヶ岳南麓で、持続可能な社会とこれからの保育や幼児教育を考える学びの場として、保育者のためのエコカレッジ「ぐうたら村」を運営し、たくさんの気づきを私たちに教えてくれます。
汐見稔幸さんが主催するエコカレッジ「ぐうたら村」 ぐうたら村公式HPより
環境に初めて関心を持ったのは中学時代。故郷の大阪府堺市の沿岸工業地帯が排出した汚れた空気で仁徳天皇陵に住む鳥達が一斉に飛び立つ光景を見たときだと言います。
「快適さと便利さのためにCO2大量排出の道を選んだのは我々。誰かが悪いと言ってるうちは何も変わらない」との言葉が印象的でした。
では、どうすればいいのでしょう?
「環境を守るには、今の生活スタイルを変えるしかない。人間が自然を壊して自分たちの都合に沿ったものを作っていくことが当たり前と言う教育に根本的に欠けていたことは、人間が多様な生き物によって生かされているということです」
子ども世代に、“自然を想い、持続可能で豊かな暮らし”をどうやって伝えていくか。子ども時代にどんな経験・体験をさせていくことが求められるのか。 自然環境とその原理原則を活かした暮らしの仕組みから子育てや教育を見つめ直す活動を続けていらっしゃいます。
会場の参加者とともに、未来に渡すべきバトンを考えた
シンポジウム後半では参加者からの質問に3人が答えるQ&A形式でより深い考察がなされました。その中からいくつかのやりとりをご紹介します。
最初の質問は、保育論文を準備している学生からの「保育者はSDGs をどこから学べばいいのか?」という質問でした。
「保育の世界でもSDGsへの関心が急激に高まっていて『ぐうたら村』でも研修が増えてきました。SDGsを意識せずとも生物多様性を考える保育者が増え、子ども達は体験から学んでいます。食育の現場でも〝料理を作るから家で余った食材を持ってきて’’と言うと〝捨てちゃいけないんだよね、使えるんだよね’’と子ども達はふつうに理解していく」
と汐見さんが体験の大切さをアドバイス。
「火星で水はどうするんですか」と質問した小学生に、村木さんは未来への明るい展望をこう示してくれました。
「CO 2が大気である火星にも水はあります。北極と南極のドライアイスに、わずかに水も混じっています。CO2と水にアルミホイルを混ぜてシェイクすれば燃料となる天然ガスだって作れるんです」
また「快適で便利な現在の日常は、一方で多量のエネルギーを消費しています。その日常の行動を変えるにはどうすれば良いか」という質問には3人とも共通の意見が飛び出しました。
石田さん - それには、行動変容を促す脳の話をしなければならないかもしれません。脳には本能を司る<古い脳>と意識を司る大脳新皮質と言う<新しい脳>があり、行動の90%を支配しているのは古い脳なんです。この古い脳を動かさないと行動は変わりませんが、大きな変化はハードルがとても高い。でも今回のコロナ禍で少し不自由な生活でも豊かに暮らせるということを、古い脳も学び、おそらく変化することができた。だから変化のハードルを低くし、それを少しづつ超えていくというやりかたで、行動を変えていけるかもしれません。
汐見さん - その通りですね。たとえば座禅には、山を指さして「もし山という言葉がなかったら、あれは何ですか?」という問答があります。つまり座禅は新しい脳が生んだ言葉以前の世界に戻る訓練なんです。こうした感覚で物事を捉えると、人も万物に命がある自然界の一部にすぎないという感覚が、内面から自ずと湧いてくるんですね。
村木さん - 行動変容は本能的にやりたいと言うポジティブな気持ちにならないとなかなか続かない。僕の場合は新しくCO2経済圏を作らなくちゃというよりも、本能的にやりたいと思えるポジティブな動機付けからなんです。
石田さん - そうですね。僕たちは遊びたい。ライフスタイルとしてもっと遊べというのが僕のモットーです。
楽しいこと、好きなこと。そんなポジティブな側面に人の本能は向かう。そこに働きかけることが行動に変化をもたらすという、希望がこもったメッセージでした。
どう行動するか、より、どう楽しむか
ひの社会教育センター 寺田達也さん
主催団体で、「広く市民に社会課題を学ぶキッカケを作る」 「学んだことを、実践する機会を創る、応援する」をミッションに日野市で活動する(公財)社会教育協会の寺田さんは、このシンポジウムを、自身のFBでこう述懐されています。
「キッカケは我が家の息子が産まれたタイミングで色々と気候変動の影響を肌身で感じたこと。彼が大きくなった時に、このまま劣化していく環境で生きるのはあまりに可哀想だなと思い、どうにかここから脱却するためのアイデアをみんなと共有しなくては、と講師や協賛の方々にお誘いしたのが始まりでした」
その想いのもと集まったのは、アウトドアや自然が好きな人、子どもの未来の幸せを願う人、環境課題に関心を持つ人、SDGsが大切だと思う人etc 。多くの人が求めている未来への希望をKEENも共有しています。あなたもできることからはじめてみませんか?
関連リンク
*石田 秀輝さんブログ
*村木 風海さんの(一社)炭素回収技術研究機構CRRA(シーラ)
*汐見 稔幸さんのHP
*エコビレッジ「ぐうたら村」