軽量ですばやく歩くことを追求した「ザイオニック(ZIONIC)」シリーズがついに登場。一般的な山歩きはもちろんスピードハイクなどにも適したこのシューズの実力を、アウトドアライターの高橋庄太郎さんがレポートする。
ここ数年のキーンのアウトドア用シューズの中でも最高レベルかもしれない・・・。僕がそう感じてしまったのが、この新作 “ザイオニック” である。とにかく気持ちよく、安心して歩けるのだ。
ザイオニックはミッドカットの防水タイプ『ザイオニック ミッド ウォータープルーフ(ZIONIC MID WP)』とローカットの防水タイプ『ザイオニック ウォータープルーフ(ZIONIC WP)』と、ローカットの非防水タイプ『ザイオニック スピード(ZIONIC SPEED)』の3種類が登場するが、ここではローカットの防水タイプ、すなわち『ザイオニック ウォータープルーフ(以下、ザイオニックWP )』を取り上げていく。
ザイオニックWPは3色展開で、こちらは“スカーレットアイビス/ディープラグーン
軽量性と履き心地のよさを両立させる細部の工夫
ザイオニックはキーンのなかでは「ファスト&ライト」に位置付けられるモデルだ。ザイオニックWPであれば、片足383g。外観にはボリュームがあるというのに、実際に軽い。足型はこのモデル用に開発されており、従来のモデルの用に前足部はゆったりしつつも、無駄をそぎ落としたファスト&ライト向けの新フィットになっている。
全体的に丸みを帯びていて、つま先に膨らみを持たせたデザイン
現代の軽量シューズはどれも華奢な構造や素材になりがちだが、ザイオニックWPは耐久性にも配慮している。たとえば、アッパー表面の素材はポリエステル製のリップストップ。一般的な格子状のリップストップではなく、ハニカム風の六角形になっているのがおしゃれで、このあたりにはキーンらしいセンスを感じる。
リップストラップの生地の上にはTPUをコーティングして強度をアップ
一方、キーンといえば頑丈なラバーによる “トゥ・プロテクション” によるつま先の保護で知られている。だが、ザイオニックWPにはキーン的なトゥ・プロテクションは設けられていない。その代わり、アウトソールとミッドソールが外側にかなり張り出し、バンパーのような機能を発揮しているのが特徴だ。実際、今回テストしてみたときには足を何度も岩にぶつけたが、トゥ・プロテクションなしでも痛みは生じなかった。
弾力あるミッドソールによる柔らかなクッション性
ザイオニックのもうひとつの特徴は、ミッドソールのクッション性の高さだ。見た感じでは、ミッドソールの厚みは 3cm ほどにもなるだろうか。かかとの両側ではさらに壁のようにせり上がって、かかとを左右からホールドし、体のブレを抑えている効果をもたらしている。
黄色い部分 EVA製のミッドソール。かなり目立つパーツで、デザイン上のアクセントにもなっている。
軽量モデルとあって、タンなどのパーツはいくぶん華奢である。また、シューレースは極薄で細い平織りタイプを採用。軽量化とともにシューズのフィット感を高めるのに貢献している。
タンは通気性が高いメッシュ素材。シューレースはこうの部分で、短いピッチで交差している
力強いグリップ力を見せるアウトソール
ミッドソールの分厚さに対し、アウトソールは比較的薄い。しかもシューズの底すべてがアウトソールで覆われているわけではなく、ミッドソールが直接露出している面積も広いのだ。これは、硬くて重くなりがちなアウトソールの素材を減らすことで、シューズの軽量化を狙っているのかもしれない。
黒い部分がアウトソール。黄色い部分はミッドソールが露出している箇所だ
じつは今回のテストで驚いたのは、このアウトソールの性能の高さだ。僕は長年、キーンを履き続けてきたが、少なくとも僕がこれまでに履いたことのあるモデルの中ではナンバーワンではないだろうか?早速気に入ってしまったのだが、詳しくは後述したい。
多様なシチュエーションでのフィールドテスト
では、ここからは実際のテストの感想をお伝えしていこう。
木々に囲まれた森の中だけでなく、風が吹き抜ける稜線上も歩いてみた
山中でザイオニックWPに足を入れ、歩き始めて数十分。すぐにわかったのは、このシューズの歩きやすさだった。蹴り出しやすく、柔軟に曲がり、大地をよく噛んでくれる。なかでもアウトソールのグリップ力のすばらしさは、やはり特筆すべき点である。
砂混じりの路面でもグリップ性は上々。“カリッカリッ”という感触で地面を蹴っていける
アウトソールは柔軟に湾曲。だから丸太の上でもスリップしにくい
このザイオニックWPのアウトソールは、進行方向に対して “横” を中心に配置されている。その結果、グリップ力が高まり、蹴りだしやすく、前方への推進力が高まっているようだ。また、屈曲性も十二分で、足の力をすみやかにシューズへ伝えてくれる。まさに “スピードハイク” に適したモデルであると実感した。
アウトソールには楕円形の突起を多数配置。ミッドソールの露出が多く、硬いアウトソールの面積が少ないことから曲がりやすく、スピーディな動きに対応できる
かかとの部分にもミッドソールがライン状に露出した部分が。このためにかかとの柔軟性も高まり、着地時にも安定する
アウトソールの凹凸が横向き中心のため、横へ過度に荷重がかかると、わずかにズレることもある。そのあたりを念頭に使うと、ますます歩きやすい
ザイオニックWPのグリップ力の高さは、登り道だけではなく、下り道でも発揮された。このときの下り道でのグリップ力とは、ブレーキ力と言い換えられるかもしれないが、ザイオニックWPのアウトソールは地面の細かな突起をよくとらえ、スリップすることがじつに少ないのには驚いた。このブレーキ力は歴代のキーンのシューズのなかでも間違いなくトップクラスだろう。下山道は怪我をしやすいものだが、ザイオニックWPの安心感は本当に高いのであった。
重力がもろに影響する下り斜面で、ザイオニックWPのブレーキ力は大いに発揮された
“突き上げ感” を吸収するミッドソールとアウトソール
ザイオニックWPのもうひとつの利点は、アウトソールとミッドソールの連動で、足裏へ地面の凹凸があまり伝わりにくいことにもある。硬いアウトソールの力と、凹凸を吸収するミッドソールのクッション性により、いわゆる “突き上げ” 感が少なくなるのだ。それゆえに、岩場や木の根が多いような場所を長時間歩いても、疲れが少ないのはうれしくなる。
岩だらけのガレ場にもザイオニックWPは十分に対応
このような岩の上を歩いていると、普通のシューズでは足裏に違和感を覚えてもおかしくはないが、ザイオニックWPなら気にならない
木の根を踏んでも、その凹凸は足裏へ伝わりにくい
岩場のような硬い場所では疲れやすいが、ザイオニックWPの疲労軽減力は確実だ
ところで、近年アウトドア界でも “厚底” のシューズが流行している。僕自身、そのクッション性の高さや衝撃吸収性などに利点が多いと考え、トレイルの状況に応じて愛用している。そういう意味では、ザイオニックWPはキーン流の厚底シューズだ。しかし、他メーカーの一部モデルにはミッドソールを分厚くし過ぎ、クッション性が高くなりすぎているものも散見され、妙にフワフワしすぎる履き心地でかえって歩きにくくなってしまっているものもある。しかしザイオニックWPは柔らかすぎず、まさに適度。これまでに厚底シューズを履いたことがない人でも違和感なく履けるはずだ。
ミッドソールのクッション性の良し悪しは、難路でこそよくわかる
高い防水性で、水たまりにも躊躇なく入れる
冒頭で述べたように、ザイオニックWPは防水機能のあるシューズである。とはいえローカットなので足首周りからは水が入りやすく、雨の日にはミッドカットのザイオニックミッドWPをお勧めしたいが、ちょっとした沢の横断や水たまりでの歩行にはまったく支障がない。
水の深さが足の甲よりも低ければ、浸水はない
アウトソールの滑りにくさと防水性で、この程度の沢の横断はまったく問題なし
表面がいくらか水に濡れても、その内側の「KEEN.DRY」によって防水性は保たれる
シューズの防水性とともにいつも語られるのは、“浸透性” だ。いくら防水性が高くても浸透性がなければシューズは蒸れ、足が熱と汗をためこんで不快になる。ここでザイオニックWPが面白いのは、TPUでコーディングされたアッパーの中で、かかとの部分へスポット的にメッシュ部分を作り込んでいること。ヒールカップで覆われたかかとはとくに蒸れやすい場所ではあるが、これによって蒸れを軽減しているのだろう。他のシューズではあまり見ない工夫である。
かかとに作られたメッシュ部分。ここからも浸水することはない
サイドにも小さなメッシュ部分。細かい部分まで配慮されている
シューズ最上部となるタンもメッシュ。内側に防水性はないが、そのために通気性があり、ますます蒸れにくい
残念ながら数日程度のテストでは判断できないのが、シューズの耐久性だ。だが、少なくても僕がテストした5日間程度ではザイオニックWPにはまったく傷みは見られなかった。とくにアッパーはかなり岩や土に擦れたはずだが、薄そうに見えるTPUのコーティングがしっかりとカバー。薄手の素材を使って軽量なザイオニックWPではあるが、予想以上に長く使えそうな気がした。
テスト用のザイオニックWPのアッパーには土汚れが付着したが、生地の摩耗や穴あきはない
ザイオニックWPはよくできたシューズだと思う。長所はいくつもあるが、特別に大きな特徴といえるのは、「アウトソールの滑りにくさ」と「ミッドソールの弾力性」だろう。この2つの特徴がバランスのよいコンビネーションを見せつけ、ザイオニックWPを優秀なシューズとしてまとめ上げている印象だ。
しかも、ローカットの防水タイプ(ザイオニック ウォータープルーフ)、ミッドカットの防水タイプ(ザイオニック ミッド ウォータープルーフ)、ローカットの非防水タイプ(ザイオニック スピード)と3種類のなかから選べるのはありがたい。軽量なアウトドア用シューズを探している方には、大きな選択肢となるだろう。
高橋庄太郎(アウトドアライター)
高校の山岳部で山を歩きはじめ、出版社勤務後にフリーランスのライターに。著書に『トレッキング実践学』『テント泊登山の基本テクニック』など。山雑誌やアウトドア系ウェブメディアでの執筆に加え、近年はイベントやテレビへの出演が多く、アウトドアギアのプロデュースも行っている。
Instagram:@shotarotakahashi
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